安藤忠雄設計、兵庫県神戸市の六甲の集合住宅です。
たまたま通りがかったと言いますか、約束の場所に行く途中で道を間違い、さまよっている時に見つけました。
学生のころ写真で見て、斜面というか崖に建つ建築の姿に衝撃を受けました。
1983年から1999年までⅠ期、Ⅱ期、Ⅲ期と続いていくのですが、後になるにつれて崖感がなくなっていっておとなしい印象になっているように思います。
道を間違ってしまったのですが、どうにか戻らずに目的地まで行こうと、車で道路をくねくね曲がりながら進んでいたときです。不安になるほどの細い道に出てしまい、もうあきらめてUターンしようかと思ったところに、偶然六甲の集合住宅が現れました。思いがけない感動の初対面でした。
学生のころにこの建物を設計した安藤忠雄の講演を聞いたことがあります。
六甲の集合住宅のことにも触れていて、建築主は平坦なところに集合住宅を建てようと思っていたようですが、崖に建てた方が面白くなりそうということで、建築主を説得して斜面に建築を計画したそうです。
斜面に沿って階段状に計画された建築は、下から見るとこのボリューム感ですが、建築基準法上は3階建てになるそうです。一番多く床が重なっているところが3層だからということのようなのですが、建築の許可については市役所とだいぶ話し合ったそうです。
そして施工会社を決める段階で、ある大手のゼネコンに見積を依頼したら『こんな崖には建てられない』と断られたみたいで、地元神戸の施工会社に請け負ってもらったと話していました。
そのⅠ期工事が無事終わったことを見届けてから、Ⅱ期、Ⅲ期の工事は一度は断られたゼネコンに工事をさせてほしいと頼まれたので工事をさせてあげたそうです(笑)
確かにⅡ期、Ⅲ期と後になるにつれて規模がどんどん大きくなっていったので、地元の小さい工務店では請けれなかったのかもしれません。
安藤忠雄さんは話がうまくて、一連の流れを笑いをとりながら面白おかしく話してくれたのですが、この工事は想像が及ばないほどたいへんだったと思います。
斜度が60度とも言われている崖に建築するという前代未聞、未経験のことに、建築の許可を出す市役所はなかなか厳しかったと思います。
さらに建築基準法上では3階建てとは言っても、地中に埋まっている杭や基礎、それに仮設構造物なんかにもたいへんなお金がかかっていると思われますし、崖に建築するという施工のやりにくさを考えてもよく請けてくれる施工会社がいたものだと驚くばかりです。
そして一番の驚きは、この計画で納得して決断したオーナーですね。
この集合住宅は賃貸だと聞いていますが、採算合うのでしょうか?
オーナーをはじめ、市役所、施工会社を説得した建築家の想いの強さはどれほどだったのでしょうか?
学生のころには無かったのですが、今は六甲の集合住宅Ⅳとして病院+老人施設が建てられているそうです。
今回は待ち合わせの時間があったのでⅠ期、Ⅱ期の外観しか見ていませんが、自宅の近所でもあり、場所も分かったことだし、時間をとってまたじっくりと見に行ってみたいものです。